記憶に残るX’masプレゼント
from:竹田慶
子どもの頃、あなたはどんなクリスマス・プレゼントをもらいましたか?
その時、どんな気持ちでしたか?
私は、小学6年生までクリスマス・プレゼントをもらっていました。
しかし、何をもらったか、どんなに思い出そうと思っても、ほとんど覚えていません。
本当に不思議です。
もらう前のウキウキ感、ワクワク感は覚えています。
夜、ベッドの中で寝たふりをして、現場を押さえようとトライしたこともありました。
低学年の頃は、サンタの正体を知りつつも、
どこかで本当にいるのではないかと思い、
「〇〇が届きますように」と
欲しいプレゼントを祈ったりもしました。
それらは鮮明に覚えています。
しかし、プレゼントをもらった時の喜びや、
その時のプレゼントが何だったかは、今では記憶の彼方へ…。
中学生くらいまでは全て覚えていたのに、不思議です。
そんな記憶が薄れる年齢になっても、いまだに覚えているプレゼントがあります。
そしてその1つは、苦い思い出とともに記憶に残っているものでした。
☆-☆-☆-☆
それは、小学2~3年生のクリスマスだったと思います。
25日の朝、プレゼントの包みを開けると、中から出てきたのは野球のグラブでした。
野球少年ではありませんでしたが、
よく近所の友達と野球をしていた当時の私にとって、
それはとても嬉しいことでした。
友達のグラブを借りたりせずに、自分のグラブで野球ができるのですから!
ところが、そんな喜びもつかの間、
その日の朝、事件が起きました。
小学生だから、持ち物に名前を書きます。
わかり易いようにと、グラブの目立つ場所に、
母親がローマ字で大きく名前を書き始めました。
「K」「E」…
その最中、台所からお鍋が母親を呼びました。
「続きは自分で書きなさい」
ペンを渡された私は、続きを書くことになりました。
しかし、書き出しの文字が大きいため、全てが入りそうにありません。
かといって、文字の大きさをそろえないのもおかしいです。
どうすればいいでしょう?
そんな葛藤の中で生まれた苦肉の策は、
隣の文字より少し横幅を細め、その次の文字もさらに横幅を細め、と
だんだん文字幅を細くしていくことでした。
結果、書きあがったのは、
……。
なんとも格好悪い。無様だ。
これを着けて野球をするなど、恥ずかしすぎる。
そして、泣きわめきながら、母親にあたりました。
「お母さんが、大きな字で書き始めるからだ!」と。
☆-☆-☆-☆
今でも覚えているのは、その時の母親の様子がいつもと少し違ったことです。
母は「ごめんね」といいつつも、
「いいじゃない、これくらい。格好悪くないわよ」
といつもより明るく笑っていました。
また、すぐに怒り出す母親だったにもかかわらず、
その日は、駄々をこねている息子に笑顔を向けて、なかなか怒りませんでした。
それに対して幼心に感じたのは、
「なんで笑っているの!」
という怒りの感情でした。
その後、グラブはほとんど使われることなく、押し入れの奥底に封印されました。
☆-☆-☆-☆
子どもの頃にはわからなかったけれど、
多くの子どもや保護者と関わってきた今ならわかります。
なぜ母親が笑顔でいたのか?
なぜ母親が怒り出すまでに時間がかかったのか?
母は、なんともばつの悪い思いをしたことでしょう。
子どもに喜んでもらうためのクリスマスなのに、
笑顔で包まれるクリスマスの日なのに、
息子が泣きわめき、自分を責めてくる。
自分の落ち度も感じるし、
息子が泣きたい気持ちもわかる。
かといって、油性ペンで書かれた文字は消えないし、
まだ幼い娘たちのことも心配だ。
あぁ、笑顔で包まれるクリスマスのはずだったのに…。
色々なことを感じ、様々なことを考えた事でしょう。
仕舞には、「もういい加減にしなさい!」で終止符を打ったのですが、
それまでの葛藤を思うと、今更ながら、頭が下がります。
☆-☆-☆-☆
クリスマス前にこのコラムを書いたのは、
笑顔で包まれるはずのクリスマスが、
もしかしたら何かのきっかけで、
苦い空気に包まれる家庭もあるかもしれないと思ったからです。
もし万が一そのようなことが起こったとしても、思い出してください。
「決してうちだけではない」ということを。
そして、様々な葛藤がある中で伝えようとした想いは、
たとえ時間がかかったとしても、
いつかきっと伝わるのだということを。
I wish you a merry Christmas!
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